ワインのある生活

JET CUP / イタリアワイン・ベスト・ソムリエ・コンクール2019

2019.11.14

イタリアワインに特化したソムリエNo.1を決める大会

このJET CUPは、イタリアワイン、食材を中心に取り扱うインポーターである日欧商事株式会社主催のコンクール。

今年で第13回を迎え、過去の歴代優勝者は日本のイタリアワイン界のトップソムリエが名を連ねる。

優勝者には、イタリア共和国駐日大使館公認のイタリアワイン大使の称号が授与され、1年間に渡ってイタリアと日本のアンバサダーとして活躍することができ、ソムリエとしての知名度も抜群に向上することになる。

イタリアワインはその20州全てにおいてワインが生産されており、各地に独自(土着品種)の品種が存在する稀有な産地である。
それゆえコンクールとなると、各州の土着品種を把握しておき、その味わいの特徴も捉えておかないといけない。
またそのワインに合わせる各州の郷土料理もイタリア語で把握しておかなければならず、
非常に高いレベルのスキルが求められるコンクールでもある。

9月からの1次、2次予選を突破したソムリエ達が、準決勝(非公開)と決勝(公開)(※会場:イタリア文化会館/東京九段下)が11月13日の同日開催に挑むこととなった。

午前中の準決勝を突破した4名のソムリエの決勝の模様を少しお伝えしたいと思います。
決勝進出4名(左から)
安江 健太郎氏(ザ・リッツカールトン京都 ラ・ロカンダ)
村尾 真幸氏(ザ・リッツカールトン京都 ラ・ロカンダ)
林 憲二氏(神楽坂アッカ)
瀧田 昌孝氏(パレスホテル東京)
公開決勝は3部構成で行われ、1部はテイスティングが行われた。
4つのグラスに注がれたワインの品種、産地、収穫年、うち2種類についてはワインの特徴を捉えたテイスティングコメント、合わせる料理の説明が求められた。制限時間は6分。この時間内にて全てを完結させなければならない為、時間配分も非常に重要になってくる。

そして、4種類全てがスパークリングワイン(イタリア呼称=スプマンテ)であった。
白2種、ロゼ2種のスパークリングワインと、これは世界のソムリエコンクールの中でも極めて珍しいことだと思う。

通常は白、赤ワインも組み込まれるはずであるからだ。

その理由の1つは、日欧商事がインポートするメインワインに、イタリアのスパークリングワイン生産者大手の「フェッラーリ社」があること。またイタリアはミラノがあるロンバルディア州でも「フランチャコルタ」と呼ばれる高品質なワインが造られていたり、特に冷涼な地域が多いイタリア北部では、スパークリングワインの産地が豊富にあることがあげられる。2つめの理由は、大会終了後に駐日イタリア大使が語られた、「近年では日本へのイタリアワインの輸入量のうち、飛躍的にスパークリングワインが増えてきている」
そのような業界背景もあり、今回のテイスティング全てがスパークリングになったとも考えられるであろう。

トップバッターは瀧田氏。
彼は7年連続出場しており、2014年度には準優勝にも輝いており、今回の決勝進出者の中で一番優勝に近いであろうソムリエである。

テイスティングは非常にスピーディーに進められ、かつ聞き取りやすい。
コメントもなるべくシンプルな表現で、分かりやすい説明がなされた。
やはり彼の経験と場馴れは他のソムリエと比べてアドバンテージになるだろうと思っていたが、
やはりその通り、堂々と迷いのないそのコメントは存在感が感じられた。
制限時間の6分を待たずに全てのテイスティングコメントも終了し、余裕を残してのパフォーマンスであった。

4種類のワインのうち、2〜4種類目は比較的正解者が多かったように思う。
ただし、1種類目の白のスパークリングは非常に難しかったのではないだろうか。
通常、イタリアのスパークリングはイタリア北部(山沿いの比較的冷涼とされている地域)が多いが、出題されたのは南のシチリア島のものであった。
ブドウ品種は「Carricante/カッリカンテ」。シチリアの土着品種である。
長らくその存在は薄くなっていた品種であったが、近年改めて注目されてきた品種である。

通常は比較的冷涼な地域(フランスのシャンパーニュもそうだが)で造られるの認識が大きいスパークリングワインだが、
イタリアではこのように比較的温暖と呼ばれている南のシチリアでも高品質なスパークリングが生産されている。
これがイタリアワインの特徴でもあり、面白さでもある。
このシチリア島には、有名な火山帯のエトナ山がそびえ、その標高約800mで栽培されているブドウだからこそ、比較的温度も低く、スパークリングワインとしての品種にも適しているのだろう。
単に南だからスパークリングのイメージが低い、というのはこのような特異な地形を持つイタリアではあまり当てはまらないかもしれない。そしてシチリア島にもイタリア南部最大手の生産者「プラネタ社」が、多様なワインを造っていることもあげられる。
やはりイタリアワインは多様性に富み、非常に魅力溢れる産地だなと改めて感じさせられた。

このことから、本当の意味でイタリアの産地の地形、気候の特徴を捉えていないとこのコンクールでは戦えないなと思わされ、
数々の世界的コンクールに出場している各国のソムリエ達でも、ここまでイタリアワインに精通しているソムリエは少ないのではないかと感じた。
それほどまでにイタリアワインを極めることは、ソムリエとしても高いレベルにあると感じさせられる。

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2部はそのまま続けて同一者にて進められる。
内容はサービス実技。
レストランに4名のゲストが来客したという想定で、ホストからのオーダーテイク〜デキャンティング〜サーブまでの一連が対象となる。
こちらも制限時間は7分間と非常に短い、この間に全てのサービスを終了するのがいかに難しいことなのかは、結果、制限時間内に全てのサービスが終えられたソムリエは一人もいなかった事が物語っている。



ワインと料理名が書かれたリストから、ゲストへ最適なセレクトを行う

ホストからのテーマは、「本日はイタリアから大切なお客様がいらしているので、素敵なサービスをお願いしたい。まずはイタリアのゲストの方にはスプマンテ(スパークリングワイン)をグラスで1杯。他のゲストへはリストの中から赤ワインの「Auritea / アウリテア」をお願いします」と。
そしてさらに、「このAuriteaに合わせる料理はどれがいいですか?」
まずはここで瞬発的に、料理のリストの中から赤ワインと相性の良い料理を提案する課題がスタートした。

このAuriteaはトスカーナのワイナリー、テヌータ・ポデルノーヴォが生産するワインでカベルネフラン100%で造られる非常に珍しいタイプで、希望小売価格12,000円。このワイナリーが手がけるトップレンジのワインである。
そして日欧商事が輸入するイタリアトップクラスのスパークリングワインの生産者で、今大会のスポンサーでもある「フェッラーリ社」を所有するルネッリ家がトスカーナに新たに所有したワイナリーである。

各ソムリエから合わせる料理として主にあがったのが「Pici al ragu di cinghiale / ピーチ・アル・ラグー・ディ・チンギアーレ」=猪のラグーソース パスタピーチ(※ピーチ=トスカーナの伝統パスタで、例えるならば日本のウドン程の太さのコシのあるパスタ)であった。
猪を煮込んだ味わいのしっかりとしたソースが絡んだ太麺のパスタとの相性は、確かに高い。
素晴らしいセレクトだと感じられる。
それも瞬発的に答えなければならないのだから、イタリア語のメニューをみて、料理内容を把握し説明するといった高い知識が要求される。
これはイタリアンレストランでの勤務経験値がないと全くといっていいほど理解できない内容でもある。
他には「Fegatelli di maiale alla lucchese / フェガテッリ・ディ・マイアーレ・アッラ・ルッケーゼ」=トスカーナのルッカという町発祥の、豚の胃袋の煮込んだスープもコメントとしてあがったが、こちらもこの赤ワインとは悪くない相性だと思われる。

そして、イタリア人のゲストのためのスプマンテのセレクトは、フェッラーリ社のオマージュが最適な選択であることは言うまでもなく。
フェッラーリ社の特別企画商品、スパークリングワイン「フェッラーリ・ブリュット・オマージュ」は「令和」の時代を迎える日本へ敬意を表して作られた、日本限定のスペシャル・キュヴェ。40ヵ月もの熟成を経て造られる。エチケットには日本で縁起が良いとされている、和風の美しい模様があしらわれ、華やかに日本を祝福している。安倍・コンテ両首相の公式晩餐会でお披露目された製品でもある。
上述のような、このワインがどのような意図で造られ、熟成期間が何ヶ月〜でといったコメントもできるとさらに高得点となってくるはずである。
この点はどのソムリエも無難にコメントしており、抜かりないなという印象を持った。
今大会にこのスペシャルキュヴェが出題されるのではと思ったソムリエも多いのかもしれない。

そしてソムリエは赤ワインAuriteaのボトルをテーブルから持ってきて、デキャンタージュするのだが、ソムリエコンクールでは必ず用意されているある「トラップ」と遭遇する。
それに気付くか否かによって勝敗の行方を左右するといっても良いほどである。

そして実際にそれに気付いたソムリエは4名の中で瀧田氏だけであった。。





トラップ=ゲストの指定したワインと違うヴィンテージのワインがセットされてある

世界の数々あるソムリエコンクールで必ずといっていいほど用意されてあるトラップ。

その対応の仕方によって点数に開きが出てくるのだが、今回は2010年の赤ワインAuriteaのオーダーだったが、セットされていたのは2015年しかない。
その間違いに気付いたのが瀧田氏だけであったのだ。
(公開決勝という緊張する舞台で、これに気付くのも至難の1つなのだが...)

瀧田氏はその間違いを瞬時に見つけ、ゲストに「大変申し訳ありません。リストに記載のあった2010年のご用意がございませんで、代わりに2015年となりますが、大変素晴らしいビンテージでもありますのでこちらでよろしいでしょうか?もちろんお代も同様で結構でございます」
素晴らしい回答だと思います。※正確にはこのワインは初めて造られたのが2015年からなので、そもそも2010年が存在しない。

日々のソムリエの職場であるレストラン、ホテルでの接客力もコンクールに直結して影響する。
知識と平行して同時に接客力も審査されるのだから、非常に疲れると思う。
本当に改めて思うがソムリエコンクールは過酷な競技である。

3年に1度開催される世界ベストソムリエコンクール(2019年春開催はベルギーアントワープで開催された)の、公開決勝では経験値豊富な世界的ソムリエですら、あまりの緊張にステージ上の大画面に映った手が震えるほどなのだから。。

瀧田氏はこの後のデキャンタージュも無難に乗り切りサーブ。最後のゲストまでは時間切れでサーブの完結はできなかったが、他全てのソムリエもそうであった。
彼はサーブ準備の途中で備品を床に落としてしまうという、ややミスをした場面ですら余裕のコメントで、備品を魚に例えて「大変失礼しました。活きがいいですね」と瞬時にコメントし会場の笑いも誘った。
このようにミスをした時ですら、それを逆手にとってゲストと観客を和ますのも好印象として残る。
本当に素晴らしい実技であったと、審査員、観客一同が思ったのではないだろうか。

林氏のテイスティング

村尾氏のサービス実技

安江氏のテイスティング

最後の課題はマグナムボトル(1,500ml)のスプマンテを均一に13脚のグラスに余ることなく注ぐ

最後の課題で、スプマンテを均一にグラスに注ぐといった課題が出された。
一度注いだグラスには戻ることなく注がなければならない。

これは近年の世界のソムリエコンクールでは恒例となっているが、
日々のワインサーヴの正確性などが求められているのだろう。

コンクールとしては点数評価の1つの調整課題の意味合いもあると思われ、
個人的にも正直、決勝の舞台で実施されなくてもいいのではと思ってはいるが。仕方ない。
多分、観客の皆さんも他にソムリエが実際にコメントする課題であったり、サーヴだったりを見た方が楽しいはずではあるが。
スポンサーもついた公開決勝だからこそ、ある程度のエンターテイメント性のある課題の方が楽しいはずであるが。
ただ、ソムリエにはとってはより過酷になるのは大変酷には思えるが。。

実際に世界ベストソムリエコンクールではサービス実技とテイスティングも各1種類ずつ多く課題が課せられる。
そしてトラップも今回の1種類だけではなく2〜3種類と用意されているのだから。。

しかし、今回決勝に挑んだ4名のソムリエはこの最後の課題もほぼ問題なくこなしていたのは流石だと思わされた。
全体を通して各ソムリエは本当に素晴らしいパフォーマンスだと感じられた公開決勝であった。

そして、優勝は...

パレスホテル東京 瀧田 昌孝!

全体的に高いレベルで課題をこなした瀧田氏が文句なしの優勝。

7年間にも及ぶ出場を経て、念願の優勝を成し遂げた。

その目には涙が溢れていたが、非常に清々しい表情が大変印象的だった。
インタビューでは今回を最後の大会にしようと心に決めていて、最後に結果が出て大変嬉しいとのコメント。

会場からは惜しみない拍手でコンクールは締めくくられた。

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今回のようなソムリエコンクールもそうだが、世界ソムリエコンクールをはじめ、出場するソムリエ達は家族とのプライベートの時間も削って何年もの間、研鑽を積み、それが結果として出る出ないに関わらず努力するのは他の業界もそうだとは思うが、並大抵のことではないであろうと改めて思い知らされた。

瀧田氏は最後に、「イタリアワインの国内での普及に貢献するのも勿論重要であるが、日本のソムリエの職業としての地位向上に貢献できるよう引き続き努力していきたい」

私もソムリエを長年経験してきて、現在はソムリエの多様な働き方を提案していきたいと考えているので非常に共感する次第であった。
ソムリエとして培ったコミュニケーション能力、知識、表現力は多様な分野で活躍できるはずだと改めて考えている。

皆さんにも是非一度、今回のようなソムリエコンクールを実際に見て感じ取ってもらいたいと強く思っている。

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